タヌキ日記


「おまえは橋の下から拾ってきた子だよ」 

というのは、親による子どもいじめの古典的名文句だ。(私は言われた覚えはない)
しかしこれはどこか真実味を帯びていそうで怖い。だから脅し文句になるわけだが、
もっとユーモアがあって、
なおかつ子どもが嫌がるようないじめ文句はないかと考えた。
親を素直に信用する子どもでは困る。


そこで
ウチの子が(名前をAとする)3つの頃だったか
どうにか言葉の応酬が出来るようになった頃、こう言ってやった。

「Aは、本当はタヌキなんだよね」

言われたAは激怒して言った。

「 ちがう ちがう  AはAだ タヌキじゃない!!」

それからも、Aの親(私)は気が向くとAに、おまえはタヌキだと言い聞かせた。
「 ほんとはね、Aはポンポコ山に住んでいたタヌキだったのに」
「 ちがう!!」
「 山に遠足に来た人が忘れて行ったお弁当やお菓子の残りを食べて」
「 ちがう!!」
「 この世にはなんておいしいものがあるんだろうと感動して」
「 ちがう!!」
「 一生懸命働きますから、どうかこの家においてくださいと…」
「 ちがう!!ちがう!!Aはタヌキじゃない!!」
(自己の基盤を揺るがされた3歳児は、やっきになって否定する)

  …またあるときは
「言うこと聞かないならポンポコ山に帰りな!」
「ちがう!! Aはタヌキじゃないからぽんぽこ山なんて帰んない!!」
 
 …別のあるときは
「ほんとはタヌキだってこと、お友達にバレないようにしようね!」
「ちがう!! Aはタヌキじゃない!ばれない!!」
「そっか、ばれてないなら良かったね〜」
「ちがう!!ちがう!!ちがう〜!!!」(泣きそう)
と、ことあるごとにAをからかう…じゃない、鍛えたのだった。


が、あるとき私は、反抗するAがかわいそうになってこう言った。
「 そうだよね。Aはタヌキじゃないよね。本当は人間だよね」

しかし、言われたAは激怒して言った。
「 ちがう ちがう  AはAだ ニンゲンじゃないっ!!」

腹がよじれるかと思うくらい笑い転げる親(私)に向かって、Aはなおも言った。

「 Aは ニンゲンじゃないんだからね!!」




追記 その後… 「Aは人間なんだよ」 「 ちがう!Aはニンゲンじゃない!」(爆笑)
    さすがにこれは、TORAUMAになってはまずいと思い、よくよく言い聞かせた。が…


(2000,4)